フレイルとは
最近、各自治体や企業が「フレイル」にまつわるキャンペーンや呼びかけ、さまざまな取り組みを行っていますが、フレイルとはどんな意味なのか、どんな人に向けての呼びかけなのかご存じですか?
フレイルとは、簡単に言えば「加齢に伴う心身虚弱の状態」のことです。健康体と要介護状態の中間に位置し、病気ではなく医学用語「frailty(⁼虚弱)」を日本語訳した概念です。2014年日本老年医学会が提唱しました。
そして2月1日はフレイルの日です。
これは2020年に4つの団体(スマートウエルネスコミュニティ協議会、日本老年学会、日本老年医学会、日本サルコペニア・フレイル学会)が制定したもので、「2月1日」→「201」→「フ=2、レ=0、イ=1、ル」の語呂合わせから日本記念日協会に認定されました。
フレイル状態に気づき、予防や治療を行えば介護への進行を遅らせることできます。
いつまでも高齢者が健康で介護の必要がなく過ごせるためにも、フレイルについて理解が必要といえるでしょう。
参考までに「要介護状態」とは、心身に何かしらの障害があることで、日常生活を送るには手助けが必要な状態を指します。
たとえば排泄や入浴、食事において一人で行えず、家族や介護士のサポートが必要になると、要介護状態となります。
フレイルの症状
フレイルになると、体の変化に衰えを感じます。
- ① 体重減少
- ② 歩く速度が落ちる
- ③ 疲れやすくなる
- ④ すぐ休みたくなる(活動低下)
- ⑤ 握力が弱くなる
- ⑥ 冷えやすくなる
体重が減ると、脂肪や筋肉が減るので運動や活動量の低下は顕著に現れます。
同じように筋肉量が減り、筋力や身体能力の低下がみられる状態を「サルコペニア」といいます。
高齢者の不意のつまずきや転倒の原因の一つです。
一方、「フレイル」は筋肉量だけではなく体力そのものが低下し、体が弱る=虚弱な状態を指します。
原因・状態 | 現象 | |
---|---|---|
フレイル | 体重減少、活動量低下 | 虚弱、握力低下、やる気低下 |
サルコペニア | 筋肉量減少、身体能力低下 | 転倒しやすい、重たい物が持ち上げられない |
フレイルとサルコペニアの違いは虚弱です。
フレイルは動くことも億劫になり、活動そのものが減ってしまい、介護が必要になります。
「高齢だから仕方ない」「周りも同じだから」「ちょっと疲れているだけ」と思っているうちに、どんどんフレイルが進行し、要介護まであっという間・・・という可能性も。
もちろん本人の自覚だけではなく、周りにいるご家族もプレフレイルの時点から意識して、フレイル進行を遅らせて介護予防につなげることが大切です。
フレイルの原因
フレイルチェック
フレイルの早期発見のために、ご自身でセルフチェックができるように、東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授が「フレイルチェック」を考案しました。その中に11項目の「イレブン・チェック」があります。
栄養、運動、こころ・社会性について回答します。質問数は11、回答は「はい」「いいえ」の選択だけなので高齢者の方も面倒にならず、考え込むことなく回答できますね。
NO. | イレブン・チェック | 回答 | |
---|---|---|---|
1 | ほぼ同じ年齢の同性と比較して健康に気を付けた食事をここがけていますか | はい | いいえ |
2 | 野菜料理と主菜(お肉またはおさかな)を両方とも毎日2回以上は食べていますか | はい | いいえ |
3 | 「さきいか」「たくあん」くらいの硬さの食品を普通に嚙み切れますか | はい | いいえ |
4 | お茶や汁物でむせることがありますか | いいえ | はい |
5 | 1回30分以上の汗をかく運動を週2回以上、1年以上実施していますか | はい | いいえ |
6 | 日常生活において歩行または同等の身体活動を1日1時間以上実施していますか | はい | いいえ |
7 | ほぼ同じ年齢の同性と比較して歩く速度が速いと思いますか | はい | いいえ |
8 | 去年と比べて外出の回数が減っていますか | いいえ | はい |
9 | 1日1回以上は、誰かと一緒に食事をしますか | はい | いいえ |
10 | 自分が活気にあふれていると思いますか | はい | いいえ |
11 | 何よりまず、物忘れが気になりますか | いいえ | はい |
また、簡単に、フレイルやサルコペニアの危険度を測ることができる、「指輪っかテスト」というものもあります。
指輪っかテストはいつでもどこでも簡単に測定可能です。
その方法は、両手で輪っかをつくりふくらはぎの太い部分を軽く囲みます。
※参照:飯島研究室
指輪っかテストは足のふくらはぎの筋肉量を確認するので、サルコペニアの危険度を確認することができます。
しかし、指輪っかテストではフレイルのリスクまでチェックすることができないので、イレブンテストも忘れずに確認しましょう。
フレイルの原因
フレイルの3大要素は「身体的要因」「精神・心理的要因」「社会的要因」です。 加齢老化による体力が低下は言うまでもありませんが、家族や知人との交流減少、伴侶や兄弟との別れ、金銭的な余裕がなくなる、テクノロジーへの遅れ、孤独感なども影響しています。
- ① 身体的要因
加齢による老化で運動能力が低下します。活動量減少により歩行速度も遅くなり、寝ることが多くなります。
また食欲の低下だけではなく歯が抜け、入れ歯になると以前のように食事を楽しむことがなくなり、ますます低栄養が進み口腔機能が低下します。 - ② 精神・心理的要因
うつや認知症、そしてMCIという認知症の前段階である軽度認知障害も影響します。
MCIの有病率は13%と推定され、約400万人の軽度認知症の方がいると推計されています。
※MCIはもの忘れのような記憶障害はあるものの、認知機能はあるため日常生活に支障はありません。
ただし日常生活でMCIの兆候がではじめたら、普段の生活が送ることができるからといってそのままにしておくと、認知症、そしてフレイルへ進行する場合もあるため、ご家族や周囲の方が気になるようであれば、医師に相談することをおすすめします。 - ③ 社会的要因
社会的な孤立、伴侶や兄弟との別れで孤独を感じることがあります。
外出を控えるようになり、家の中に閉じこもってしまうと、外部とのコミュニケーションが減り、ますます一人を感じることが当たり前のようになります。
高齢者のスマホ利用が増えてはいますが、SNSを使いこなせないと、遠く離れた家族とも疎遠になりがちに。
この3つの要因が合わさって、日常の生活動作を行う機能がますます低下。
生活機能障害を引き起こすとフレイルにつながります。
フレイルサイクル
※参照:健康長寿ネット フレイルの予防
フレイルサイクルとはフレイルに陥った場合、連鎖的に悪化するケースです。
まず図のようにサルコペニアを起点にした場合
- ① 筋力量が減り、身体機能が低下
- ② 普段の生活活動そのものが低下(外出控え・閉じこもり)
- ③ エネルギー消費量が低下(新陳代謝が落ちる)
- ④ 食事の量が減る、孤食
- ⑤ 低栄養
- ⑥ ①に戻り悪循環なサイクル
- ⑦ 最終的には要介護状態に
このフレイルサイクルに陥ってしまうと、軌道修正は困難です。
そのためにも、気づきが重要なことがおわかりいただけるでしょう。
新型コロナウィルスとフレイル
新型コロナウィルスに罹患したからといって、直接フレイルになることはありません。
しかし、コロナに対する恐怖心、感染予防のためリハビリテーションやレクリエーションの実施制限、家族との面会制限、外出制限による運動不足、そして罹患したときの体力減退、食欲不振や倦怠感など、フレイルへの影響は少なくありません。
参考までに東京都ではコロナに負けないフレイル対策をホームページで紹介しています。
東京都福祉保健局
その中で3点を挙げています。
- ① バランスのよい食事をとり、栄養をつけて体力を温存する
- ② 密を避けて外でウォーキングや屋内ではストレッチをして運動する
- ③ 電話やメールでコミュニケーションをとって、孤独にならない
遠方に高齢者の方がいれば積極的にコミュニケーションをとってあげるのもよいでしょう。
フレイル対策
平均寿命が年々高くなり、高齢者人口が増えています。
高齢者が健康でかつ介護不要な状態を続けることがご家族はもちろん、自治体にとっても望ましいといえます。
そのため各自治体から情報発信やイベントを通じて認知拡大を進めています。
東京都福祉保健局
企業や自治体の取り組み
2月1日にフレイルの日が制定されてまだ数年ですが、直近1か月にフレイルが取り上げたニュース記事は数多く取り上げられています。
法人や自治体が積極的にフレイルの予防や取り組みを行っているのです。特に、AIなどテクノロジーを駆使したヘルステックを活用した取り組みは、ますます強化されていくことでしょう。
ABA 青森朝日放送
株式会社エス・エム・エスのプレスリリース
仙台市とエス・エム・エス、ICTを活用したフレイル予防の実証実験を開始。スマホでフレイルのリスク度をチェック、オンラインで4拠点をつなぎ予防教室を実施
認知症ねっと
ご自身での予防
まずは、フレイルチェックを心がけることが大切です。
バランスのよい食事や適度な運動を無理のない範囲で行いましょう。
また、自治体によっては前述のとおりフレイル予防に関するイベントや催しがあるので、広報誌などこまめに確認することをおすすめします。
それでも食が細くなった場合は、サプリメントで補うと良いでしょう。
また、耳が遠くなってしまい電話に出るのが億劫になることもあるので、助聴器を使ってコミュニケーションを活性に役立てます。
フレイル予防は決して介護ではありません。
気づきがあり適切な支援サポートを行うことで、介護を遅らせる、または健常な状態になる場合があるといわれています。
ご自身での気づきは難しいかもしれませんが、身体面だけではなく精神面でもサポートが必要なだけに、家族や周囲にいる方でフレイルの事を理解し、高齢者に接していくことが必要といえるでしょう。
よくある質問
フレイルの原因は?
下記の3つの要因が合わさり生活機能障害を引き起こすとフレイルにつながります。
- 身体的要因:低栄養、口腔機能低下、運動障害
- 精神・心理的要因:うつ、認知症、MCI
- 社会的要因:孤立、孤食、閉じこもり
フレイルとサルコペニアの違いは?
筋肉量の減少、身体能力の低下状態が「サルコペニア」。
「フレイル」は筋肉量の減少だけではなく体力低下や精神的にも弱る虚弱状態となります。
フレイル防止、または進行を遅らせるようにフレイルチェックをしましょう。