DXとはデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略です。組織がDXを取り入れることにより、デジタル技術を活用し、業務プロセスやビジネスモデルを改革し、新たなサービスや業務効率化を取り入れます。
また、ICTとはInformation and Communication Technology(情報通信技術)の略で、例えば医療現場では電子カルテ、医療画像の解析、遠隔医療により医療従事者や患者にとってよりよい医療環境に役立っています。

ここ数年、医療・介護現場ではDXやICT化が急速に進められています。特に、介護現場の課題解決にはDX化が不可欠です。人手不足解消、業務効率化、そして利用者への質の高いケア提供を実現するために、国や自治体は様々な支援策を用意しています。
この記事では、介護事業所向けのDX・ICT補助金の活用方法を解説します。
介護現場におけるICT・DX化の必要性
介護現場におけるDX化・ICT化は喫緊の課題です。その理由は、高齢化の進展に伴い介護ニーズが増大する一方で、介護人材の不足が深刻化しているからです。人手不足による離職率の上昇、経営悪化はまさに負のスパイラルです。厚生労働省が発表した「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」 によると、2026年度には約240万人、2040年度には約272万人の介護職員が必要とされており、総合的な介護人材の確保対策に取り組むとしています。
- •介護職員の処遇改善
- •多様な人材の確保・育成
- •離職防止・定着促進・生産性向上
- •外国人材の受入環境整備など
※参照:第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について
そして、この介護人材確保の対策に挙げられている項目は業務のDX・ICT化が欠かせません。 まず介護現場でのDX・ICT化のメリットをまとめました。

- •業務効率の向上:これまで手書きだった日報を電子化により引継ぎ緩和、データ共有により予測も可能に。また介護請求業務を手動から自動にすることで効率化が図れます。
- •記録業務の軽減:クラウド管理により、ファイリングの手間や保管場所が不要、ペーパレスとなりコストやスペースの削減につながります。データ通信機能がある測定機器を使用すれば、読み違いや誤入力がなくなります。
- •情報共有の迅速化:患者の症状の共有や引継ぎがクラウド管理で瞬時に確認できます。
- •質の高い介護の実現:患者に向き合う時間が増え、データからそれぞれのケアプランを構築することができます。また見守りセンサーを利用すると異常検知が迅速に行えます。
- •人材不足の解消:少ない人員でも効率的に業務が行えます。またその働きやすい環境により、離職防止につながります。
これらのメリットにより、介護現場はより効率的かつ質の高いサービス提供が可能となり、ひいては介護従事者の負担軽減や人材確保にも繋がります。すなわち介護現場のDX・ICT化は、持続可能な介護サービスを実現するための重要な鍵となります。
介護事業所向けDX・ICT補助金の活用方法について
補助金を活用してDX・ICT化を進める事業所が増えています。2025年度も様々な支援策が用意されています。
代表的な2025年度の活用方法のポイントは以下の通りです。
- •介護テクノロジー導入支援事業: 介護ロボットやICT機器の導入を支援。
- •ケアプランデータ連携システム構築支援: 情報連携の円滑化を促進。
- •訪問介護サービス体制強化支援プログラム: 訪問介護の効率や質の向上をサポート。
これらの補助金を活用することで、業務効率化、サービス向上、そして人材不足の解消に繋がります。各支援事業の詳細については、下記で詳しく解説していきます。
介護テクノロジー導入支援事業
介護テクノロジー導入支援事業とは、介護ロボットやICT等のテクノロジーを活用し、介護人材確保のために業務の改善や効率化を進めることによって、職員の業務負担を軽減し、生み出された時間を直接的な介護ケアの業務にあてて、サービスの質を高め、介護現場の生産性向上を推進することが目的とされています。
※参照:介護テクノロジー導入支援事業

- •介護ロボット導入支援:移乗支援、移動支援、排泄支援、見守り、入浴支援など
※厚生労働省・経済産業省で定める「ロボット技術の会ご利用における重点分野」に該当する介護ロボット - •見守りセンサー導入支援:Wi-Fi環境の整備、インカムや見守りセンサーの情報を介護記録に連動させる情報連携
- •記録システムや請求システム導入支援:介護ソフト、タブレット端末、スマートフォン、インカム、クラウドサービス
- •通信環境整備:システム連動させる情報連携ネットワーク構築経費
- •介護ロボットやICTを活用するためのICTリテラシー習得のための費用
補助を受けるには事前協議書と交付申請書が必要です。申請内容は各都道府県によって異なるので、事業所がある都道府県のホームページ等を確認するように。これらの支援を通じて、介護事業所は、より質の高い介護サービスの提供と、働きやすい環境の実現を目指すことができます。介護テクノロジーの導入は、職員の身体的負担を軽減するだけでなく、情報共有の迅速化や記録業務の効率化にも繋がります。その結果、介護職員はより多くの時間を入居者とのコミュニケーションに費やすことができ、サービスの質の向上に貢献します。
ケアプランデータ連携システム構築支援
ケアプランデータ連携システム構築支援とは、居宅介護支援事業所と居宅サービス事業所とのケアプランをオンラインで連携できるシステムです。これまで手書きで実績を入力し、印刷してFax/郵送して連携してきましたが手書きの時間、誤入力、書類のファイリング、郵送の工数等の課題がありました。これをシステム連携することで、事務負担や時間を削減することができ、多職種連携の強化や質の高いサービス提供に繋がります。
システム構築のメリット
- •情報共有の迅速化
- •連携作業の標準化、一元化
- •業務効率の大幅向上
- •ミスの削減と安全確保
- •質の高いケアの実現
- •利用者満足度の向上
ケアプランデータ連携システムは義務化ではなく推奨ですが、導入によるメリットが多岐にわたります。補助金は自治体で行っており、申請や補助内容については、事業所がある自治体のホームページを確認してください。
訪問介護サービス体制強化支援プログラム
訪問介護サービス体制強化支援プログラムとは、人手不足が課題の訪問介護サービスについて、訪問介護等サービスの担い手の確保や経営の安定化を図り、訪問介護サービスを利用者が安心して受けられるために環境整備を確保するものです。

主な取り組みとして下記が挙げられています。
•経験が浅い介護ヘルパーの同行支援にかかる経費補助
•コンサルタント事業者や社会保険労務士会等と契約し、事業所の経営アドバイスにかかる費用補助
•人材確保のための求職イベントやハローワークと連携した情報発信
こちらも各都道府県によって補助の内容が異なりますので、自治体からの情報は各ホームページにてご確認ください。
補助金の活用範囲を広げる
中小企業が利用できる補助金は多岐に渡り、設備投資やIT導入など、事業の成長を後押しする様々な用途に活用できます。例えば、人手不足解消に向けた省力化投資を支援する「中小企業省力化投資補助事業」や、業務効率化や生産性向上に繋がるITツールの導入をサポートする「IT導入補助金」があります。
IT導入補助金について
IT導入補助金とは、中小企業・小規模事業者に対し、企業がもつ課題解決のためのITツールを導入費用の一部を補助するものです。
※参照:IT導入補助金について

医療や介護の現場で、ITツール(ソフトウェアやハードウェア)を導入することによって、現状の業務効率化、リソースの緩和、ケアの質向上が期待できます。そのITツールを導入に補助を行うのがこのIT導入補助金制度で、経済産業省が所管しています。主に介護ソフト、介護ロボット、見守りツールの導入が多く取り入れられています。補助金申請者は、IT導入補助金事務局に登録した支援業者とパートナーシップを結ぶ必要があります。なお支援業者ではないツールベンダーを選んだ場合は、対象外となります。
流れとしては、まずどのITツールを導入するか、ツール選定の検討から始まります。
今の業務の課題を洗い出し、解決できるツールと支援業者があるのかどうか、その支援業者のサポートや保守体制、さらにソフトウェア導入であればセキュリティ対策も選定ポイントのひとつです。
ツールの導入はスタッフが使いこなせるのか、ツールを導入しても使いにくさから、結局アナログに戻ってしまうのは元もこうもありません。IT導入支援事業者と協力しながら、最適なITツールを選びましょう。申請には、事業計画書の作成や必要書類の準備も含まれます。これらの準備をしっかりと行うことで、スムーズな申請が可能になります。
ICT・DX化におすすめのバイタルデバイス
DX化で必要なバイタル用品は、介護現場における業務効率化と質の向上に不可欠です。 その理由として、バイタルデータを効率的に収集・管理することで、利用者の健康状態の変化に迅速に対応できるようになり、事故や急変のリスクを低減できるからです。また昨今、介護現場では外国人労働者が増えています。手書きの書き写しは誤字や視認性が問題となります。(例えば数字の「7」と「1」の書き方によっては誤認する場合があります)そこで一部の通信機能付きバイタル用品は、測定値を自動的に記録し、クラウド上で瞬時に共有できるものがあります。記録の手間を省き、情報の共有をスムーズになることで、介護スタッフはより多くの時間を利用者のケアに費やすことができ、サービスの質が向上します。
- ■体温計
- ■血圧計
- ■パルスオキシメーター
- ■体重計
- ■血糖測定

ICT・DX化に対応したバイタル用品の導入は、介護事業所にとって業務効率化、質の向上、リスク管理の強化に繋がり、より質の高い介護サービスを提供するために重要な投資と言えるでしょう。また、最近では介護医療業界だけではなく、従業員の健康管理のモニタリングのために通信機能搭載の血圧計や体温計を採用する企業も(特に運送会社)増えています。
まとめ
介護事業所のICT・DX化において、補助金・助成金の活用は不可欠です。
介護現場におけるICT・DX化を推進することで、業務効率化、人材不足の解消、サービスの質向上が期待できます。しかし、導入にはコストがかかるため、補助金・助成金を有効活用することが重要になります。これらのメリットを享受することで、介護事業所の経営改善に繋がるので、補助金や助成金情報を常に収集し、自社に最適な制度を活用しましょう。
よくある質問
補助金と助成金の違いは?
助成金は事業の拡大や雇用拡大、教育、環境改善のために国や自治体が予算をとって支給するものです。助成金は主に厚生労働省が主幹となっています。一方、補助金は国や地方公共団体が企業に対し、新規事業や業績促進、雇用の安定化のための資金を補助するための給付です。 助成金と補助金の違いは、助成金は厚生労働省が対象、補助金は主に経済産業省や地方の自治体が管轄します。
介護テクノロジー導入支援とIT導入補助金はどちらが良いですか?
まず前提として併用しての申し込みはできません。補助金の種類や事業所の規模により補助額が異なること、またIT導入補助金の所管は経済産業省ですが、介護テクノロジー導入支援は厚生労働省が所管となっており、そこから事業所がある各都道府県に申請します。そのため事業所の規模、所在地、どういったツールに補助金を使うのか等により、サポート(金額)の内容が異なります。