毎日の口腔ケアが大切です

【口腔ケアのやり方】手順をイラストで解説

目次

口腔ケアと聞くと何を想像しますか?

口腔ケアとは口の中を清潔にすることです。虫歯や歯周病、歯肉炎、口臭といったお口のトラブルを防ぐために実施します。
高齢者や要介護者にとっては、いつまでも自身で口を動かせる、すなわち会話や食事の咀嚼(そしゃく)、嚥下(えんげ)ができるように、さらには全身の健康や生活の品質向上を目的としたケアでもあります。
一言で口腔ケアといっても、歯磨きをすれば良いだけではないことがわかりますね。

もちろん口腔ケアが必要なのは、要介護の高齢者だけではありません。胃瘻(いろう)で口から栄養を取り込めない患者さんも、口を動かすことができないので口腔ケアが必要になります。
認知症の人も口が汚れがちです。今、口を動かせている方も、いつなんどき口腔ケアが必要になる可能性もゼロではありません。

今回は在宅介護時に必要な口腔ケアについて、その目的やメリット、方法などイラストを交えて解説いたします。

なぜ口腔ケアが必要なの?

なぜ口腔ケアが必要なのでしょうか。
理由は、口の中を清潔に保つことにより、様々な病気やトラブルの予防につながるためです。

  • ● 口臭予防
  • ● お口の爽快感が得られる
  • ● 唾液が分泌されることで口の中の乾燥を防ぐ
  • ● 口の中の細菌を減らす
  • ● 咀嚼や嚥下といった口腔機能の持続、向上
  • ● 口臭予防など抱えていた悩みが解決することにより、イキイキ、QOL向上
  • ● 誤嚥(ごえん)性肺炎の予防にも

単にお口のトラブルを予防できるだけではないことがわかりますね。

特に介護高齢者は、「食べる」「話す」といった口の機能が低下します。食べること、話すことが人生の楽しみと思う人は多いです。
食べる楽しみ、話す楽しみがなくなってしまうと、コミュニケーションが乏しくなり、表情も消え、孤独を感じ、行動する意欲すら失われてしまいます。生をより良くする意欲を持たせるためにも、口腔ケアが必要なのです。

口腔ケアのメリット

介護が必要な高齢者や、在宅医療が必要な患者さん達にとっての口腔ケアのメリットを下記に挙げます。
実は口腔トラブルだけではなく、様々な病気の予防にもつながるので覚えておくと良いでしょう。

口腔ケアのイメージ

口腔内のトラブルを予防

虫歯や歯周病を防ぎます。老化とともに歯茎が弱くなり、入れ歯や詰め物と歯茎の隙間に食べかすがつまりやすくなります。そのままほおっておくと、口臭はもちろん虫歯菌が増殖して、虫歯や歯周病が進行します。

また、歯や歯茎だけではなく舌や口の中全体も汚れが溜まると、細菌の増殖に良い環境となってしまうだけではなく、口の中が乾燥し、唾液量が減ってしまいます。そもそも唾液は口の中の乾燥を防ぐだけではなく、唾液がもつ細菌や食べかすを除去する自浄効果により口腔内を清潔に保つことができます。

誤嚥性肺炎の予防

誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)とは飲食時に食べ物、飲み物を飲み込むことを嚥下(えんげ)とい言います。通常、健康な人であれば、食べ物は嚥下により、口から食道を通じて胃に入っていきますが、加齢によりこの嚥下の機能が低下すると、口内細菌が食べ物が胃ではなく、口から肺に入ってしまいます。
同時に口内細菌も肺に入ることから、炎症を起こす病気です。誤嚥は自覚症状がないため、何度か繰り返して発症しますが、誤嚥そのものの予防や治療はないので、なるべく肺の中に口内最近や食べかすを減らして肺の中に入らないようにすることが大切です。そのためにもしっかり口腔ケアをして口の中を清潔に保つようにしましょう。

コミュニケーション活性

口腔ケアを行うと、口臭予防にも効果があります。特に入れ歯は歯茎の隙間に食べかすが付着したままだと、金具がかかる歯が虫歯になりやすく、口臭の原因にも。
口臭はなかなか自覚症状がないかもしれませんが、家族の方から「口が臭い」と言われると会話がめっきり減ってしまい、コミュニケーションを取ることができなくなります。

口腔内のイメージ

さらに、口腔内をブラシで刺激をすることで、滑舌や発声がよくなり、舌や口の動きが活性すると表情も豊かになるので、ご家族や介助する方とのコミュニケーションが向上するでしょう。

認知症予防

口腔内がいつまでも健康な状態であればあるほど、歯で食べ物を噛んで飲み込む咀嚼する機能が続きます。その咀嚼機能があると食事を積極的にとり、しっかり栄養を補うことができるようになり、食を味わって楽しむことができます。
サプリメントで補うのではなく、旬の食材を楽しんだりするだけでも、季節を感じることができますよね。そのように「噛む」行為が脳を活性化し、すなわち認知症の予防にもつながるのです。

日本福祉大学が行った分析によると、歯を失うと認知症のリスクが最大1.9倍、歯がほとんどなく義歯を仕様していない人、あまり噛めない人、かかりつけ歯科医院のない人は認知症リスクが高いという結果が示されています。※

※参照:神奈川歯科大学プレスリリース

放っておくとこんなトラブルが・・・!

要介護者は健康な状態ではありません。
新陳代謝も弱り、身体に何かしらの疾病を抱えています。また病気や老いで心細くなりがちです。
心身ともに健康とは言えない状態なので、口腔内の病気が発端で発熱を起こし、低栄養や脱水に陥ったり、免疫機能や体力の低下を招いたりする恐れがあります。血管など、他の身体の臓器に影響を及ぼすこともあります。

例えば口腔内が不衛生のまま過ごすと、歯周炎や歯肉病だけではなく、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。誤嚥性肺炎は高齢者や、脳梗塞の後遺症を持つ方、パーキンソン病などの神経疾患の患者がかかりやすい病気のひとつです。
口腔内を清潔に保つことにより、食べ物などが誤って器官に入ってしまっても、細菌の増殖を抑え、誤嚥性肺炎の発症リスクを低減することが可能です。

また咀嚼力が弱り、食事を口からとることができず経管栄養になると、唾液の分泌量が減り、お口の中が乾燥してしまいます。
お口の中が乾燥する「ドライマウス(口腔乾燥症)」は、インフルエンザをはじめウイルスの温床になりやすく、空気感染により風邪はもちろん、新型コロナウィルス感染症のリスクも高まります。またドライマウスは、虫歯や歯周病にかかりやすくなり、味覚異常の原因にもつながるので、お口の中の乾燥を防ぐことが必要です。

高齢者の口腔ケアの方法は3つ

口腔ケア方法イメージ
参考:気持ちのいい口腔ケア!その2 -お口のケア方法- | 医療・衛生材料の川本産業株式会社

口腔ケアの方法は3つにまとめられます。

  • ① 口腔内を清潔に保つための衛生ケア
  • ② 口を動かし飲み込む機能を維持・向上させるための機能ケア(機能的口腔ケア)
  • ③ 口腔内の保湿を中心とするケア

口腔内を清潔に保つための衛生ケア

細菌を減らすために、口腔内を清潔にする衛生面を重視したケアです。
主に、うがい、歯ブラシ(スポンジ含む)を使ったブラッシング、口の中の粘膜や舌の汚れの除去、入れ歯の掃除、さらに歯科衛生士など専門者による清掃、歯石除去、フッ素塗布のような方法が挙げられます。

機能的口腔ケア

唇や舌、咀嚼に関わる顔の筋肉など、口の働きを向上させるためのケアです。
首や肩など緊張を緩める体操をする、声を出して嚥下に関わる筋肉を強化する、舌を動かしたり、頬を膨らませたりすることで、顔や口周りの動きに注力することが必要です。機能的口腔ケアを行うことで、食べ物を噛んだり飲み込んだりする力がつくので、食事を楽しむことを継続できます。

口腔内の保湿を中心とするケア

唾液の分泌量が低下しないように、乾燥を防ぐためのケアです。
普段から水分をよく摂取するように、また食事はよく噛んで、ストレスのない日々を過ごすようにしてください。最近では「口腔保湿剤」でケアする方法があります。
口腔保湿剤には、液状のリキッドタイプと、やや固めのジェルタイプがあります。ジェルタイプにはフレーバー付きの商品もあるので、少しでもケアを楽しめるように、何種類かのフレーバーを用いると良いでしょう。

口腔ケアはいつ・誰が行うのでしょうか

普段歯磨きをする時は、食後や寝る前が多いと思います。
特に就寝中は、唾液の分泌量が減り、口の中が乾燥することから、虫歯菌や歯周病菌が繁殖しやすくなります。このため、寝る前の歯磨きが大切です。

では、口腔ケアが必要な要介護や高齢者の方は、いつケアをすればよいでしょうか。
口の中の細菌を少しでも減らすことが第一であることから、夜間に増殖した菌を洗い落すためにも、基本は起床時にケアすることがおすすめです。
毎食後はもちろんですが、食前に咀嚼や嚥下の運動を兼ねた口腔ケアを実施するのも良いでしょう。「咀嚼や嚥下の運動が終わったら食事が楽しめる」というモチベーション向上にもつながります。

次に、高齢者が自分で口腔ケアができたとしても、磨き残しや隅々までブラッシングが行き届かない場合があるので、なるべくご家族や介助者が手伝われた方が良いでしょう。
訪問歯科医師による指導やトレーニングもあるので、かかりつけの歯科医が訪問治療を行っていない場合は、行政機関などにご確認ください。

口腔ケアの手順とアイテム

参考:気持ちのいい口腔ケア!その2 -お口のケア方法- | 医療・衛生材料の川本産業株式会社

口腔ケアの手順や使用するアイテムについて、わかりやすくご紹介いたします。

  • ① 準備:口腔ケアの準備から乾燥したお口の中を湿らすまで
  • ② 清掃:ブラッシング~ゆすぎ
  • ③ 保湿:仕上げやケアの合間に

※口腔ケアを行う時は感染対策も兼ねて、ご家族ならびに介助者は、「マスク」「グローブ」「エプロン」が必須です。必要に応じて、目に飛沫が飛ばないように、フェイスシールドや保護ゴーグルも有用です。

① 準備

まず介護者や患者さんに声をかけましょう。
いきなり口を開けてケアを始めるとびっくりしたり、不安になったりしがちです。寝たきりの人の意識レベルを確認するためにも、軽く手をにぎりながら声かけしてください。

次に体勢を確認してください。誤嚥を防ぐためにも、患者さんの容態に応じて適宜体勢を整えてください。
その後、お口の中や周りの状態を確認してください。喉や舌の状態、乾燥がひどく唇が荒れていないか、歯肉炎などによる出血や炎症がないか、口の状況を日々観察してください。

今はマスクで唇や口の周りが乾燥しやすくなっています。
口唇が乾燥してガサガサになっていたら、水を含ませたスポンジなどで口唇を湿らせてください。そして口腔内を湿らせます。お口の中の粘膜に、乾燥した汚れが付着していることもあります。
その場合は、汚れをふやかして取ってください。ケアスプレーがあると、お口の中にスプレーをふきかけるだけで瞬時に口腔内がうるおいます。

川本産業 マウスピュア
口腔ケアスプレー
川本産業 マウスピュア 口腔ケアスプレー

② 清掃

口腔内の汚れが落ちたら、うがいをさせてください。うがいはガーグルベース(うがい受け)があると便利です。

あしかメディ工業 うがい受け
ガーグル・ベース(ケア)
あしかメディ工業 うがい受け ガーグル・ベース(ケア)

症状や体勢、むせやすい体質であるなどして、うがいができない場合もあります。その時は、口腔ケアスポンジや口腔ケア用の綿棒、ウエットガーゼなどで汚れを拭ってください。

川本産業 マウスピュア
口腔ケアガーゼ 150枚
川本産業 マウスピュア 口腔ケアガーゼ 150枚

続いて、歯がある場合は歯ブラシやスポンジで歯を磨きます。
高齢者の歯茎は弱っています。強くこすると歯にダメージがかかったり、歯肉炎の原因になったりします。あくまでも柔らかく、小刻みにブラッシングしてください。

入れ歯の場合、バネをかける歯はバネの部分に汚れがたまりやすいので、よく磨いてください。歯のない人には、舌ブラシを使うこともおすすめです。力を入れずに奥からやさしく動かして、舌の上の汚れを取るようにしてください。

歯磨きが終わったら、うがいをさせて汚れを落としきってください。
うがいができない場合は、ウェットティッシュやウエットガーゼで拭き取ってください。

③ 保湿

すすぎが終わったら、乾燥を防ぐために口腔内を薄くジェルで湿らせます。
ここでリハビリをかねて、マッサージをしながらケアしてください。ジェルを塗布したら、余分なジェルを拭き取ります。

なお、保湿は常に必要です。せっかくお口がキレイになっても、乾燥するとまた菌が増殖してしまいます。いつでも保湿できるように、ケアスプレーは常備しておくことをおすすめします。

入れ歯のお手入れは、入れ歯専用の洗浄剤を用いるなどして、毎食後に実施してください。洗浄剤の種類によっては、就寝中につけ置き洗いするタイプもあります。

ひとことで「口腔ケア」といっても、その方法は非常に細かく、どれか欠けても患者さんにとっては苦しい思いをする場合があります。何も食べていないとしても、口腔内の環境はケアなしでは悪化する一方なので、日頃から患者さんの口腔を観察することが必要です。排泄と同様、口腔ケアは毎日必須です。
今は介護のニーズが高まっている背景もあり、使いやすく便利なアイテムが多数ございます。

病気を予防するだけではなく、「いつまでも元気で自分らしく生きたいという思い=クオリティ・オブ・ライフ(Quality of Life)」を高められるように、家族や介助する側はサポートが必要です。食事やコミュニケーションは、人間が生きるためには欠かせません。

よくある質問

口腔ケアで予防できる病気は?

以下のような病気を予防できます。

  • 虫歯、歯周病、口臭など。
  • 誤嚥性肺炎
  • 認知症
  • 心臓病
  • 糖尿病

口腔ケアの種類は?

口腔ケアには下記3種があります。

  • 衛生ケア・・・うがい、歯ブラシ(スポンジ含む)を使ったブラッシング、口の中の粘膜や舌の汚れの除去など、細菌を減らすために、口腔内を清潔にする衛生面を重視したケア。
  • 機能的口腔ケア・・・唇や舌、咀嚼に関わる顔の筋肉など、口の働きを向上させるためのケア。声を出したり顔や口周りの動きに注力することが必要。食べ物を嚙む、飲み込むといった力がつきます。
  • 保湿ケア・・・唾液の分泌量が低下しないように、乾燥を防ぐためのケア。普段から水分をよく摂取し、食べ物はよく噛み、ストレスの無い日々を過ごすこと。最近では口腔保湿剤を用いる方法もございます。

フォーム

このページのURLをコピー

介護の最新コラム
介護のコラム一覧