排尿障害(前立腺肥大症、過活動膀胱、尿失禁など)により、尿をうまく出せなくなってしまった場合に、排尿を補助する方法を自己導尿といいます。膀胱に尿が溜まり、排尿したくなると自身でカテーテルを尿道から入れて排尿します。自己導尿は尿路感染の恐れが少なく、適切な手段といわれています。排尿のしくみや、自己導尿の始め方、カテーテルの使用法についてなど詳しく説明します。はじめに
排尿のしくみと気になる排尿症状
尿は腎臓で作られ、尿管を通じて少量ずつ膀胱内に流れています。膀胱は、排尿筋という筋肉でできていて、膀胱に流れてきた尿は100mlほど溜まっても尿意を感じません。
しかし、100ml以上溜まってくると膀胱内の圧が上昇し、その刺激が脊髄を通って脳幹の排尿中枢に伝わります。
そして、脳内で「がまんする(=畜尿)」「おしっこをする(=排尿)」という命令をします。「がまんする」場合、尿道は尿道括約筋をしめ、「おしっこをする」場合、尿道は尿道括約筋をゆるませて排出します。
参考までに、成人1日の尿の生成量は1200~1500ml、1回の尿量は200~300mlといわれています。そのため1日5~6回程度、おしっこをすることが一般的です。
もちろん季節や男女によっても差はあるので、必ずしもこの値が絶対とは限りません。しかし、もしこの値に該当せず、下記の排尿症状(障害)を感じたら医師に相談しましょう。
蓄尿症状
「トイレが近い」「すぐトイレに行きたくなる」「夜中おしっこに行きたくなる」と感じたことはありませんか?朝起きてから就寝までの排尿が8回以上ある場合、「頻尿」といいます。
コーヒーやお酒など利尿作用がある飲料を好む方もいるため、一概に8回以上だからといって頻尿とは断定し難いのですが、ご自身で排尿回数が多いと思ったら頻尿といえるでしょう。
「夜中おしっこに行きたくなる」夜間頻尿は、加齢とともに頻度が高まる傾向のようです。
夜中に尿意で目が覚めて、その後眠れなくなると、睡眠不足で生活に支障をきたします。「QOL(Quality of life)」=生活の質を維持するためにも、夜間頻尿を解消できるように原因を追究し、治療が可能かどうか医師に相談しましょう。
排尿(困難)症状
「おしっこの出が悪い」「勢いが弱い」「力まないとおしっこが出にくくなった」のように、排尿したときに何かしら問題が発生したときの症状を、「排尿症状」とよびます。
おしっこをしてもまだ残っているような感覚の「残尿感」や、排尿後下着をつけてもまたおしっこが漏れてくる「排尿後尿滴下」も、排尿症状です。
排尿症状の原因は、その症状によりさまざまです。尿が膀胱から尿道を通じて出る際の通過障害や、膀胱の収縮障害や血流障害、また膀胱そのものの老化現象なども考えられます。
原因はさまざまなので、まずは泌尿器外来で専門医に症状を相談して、治療の説明を受けるようにしてください。
排尿障害の原因疾患としては、主に以下の疾患が挙げられます。
排出障害 | 前立腺肥大症、神経因性膀胱(脊髄疾患、脳血管疾患、糖尿病など) 重度の骨盤臓器脱(膀胱瘤、子宮脱)、骨盤内臓器の手術後(直腸がん、婦人科がん) 現在内服中の薬剤の有害事象など |
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蓄尿障害 | 過活動膀胱、肥満などの生活習慣病、神経因性膀胱 間質性膀胱炎、軽度の骨盤臓器脱、膀胱炎、膀胱結石など |
前立腺肥大症の印象が強いせいか、排出障害は男性がほとんどだと思っている方もいるでしょう。
しかし、実は婦人科の疾患が原因で、女性にも排出障害が起こりえます。排尿時に何かしらの症状を感じたら受診をして、早期治療に務めましょう。
排尿障害により、今までのように自然な排尿ができなくなった場合に、排尿を補助することを「自己導尿」といいます。 『尿道に管を通す』と聞くと、「自分でできるのか?」「正しく使えるのか?」等、心配ごとはつきものですが、自己導尿のメリットは下記の通りです。 ・膀胱は筋肉でできています。自己導尿で膀胱内の尿を空にすることで、「尿を溜めては出す」の収縮運動効果に期待できます。また細菌発生を抑制するので、尿路感染を防ぎます。 ・カテーテルを用いて、トイレで直接排尿ができます。採尿(ウロ)バッグを持ち歩く必要がなく、学校や職場、旅行といった通常の社会生活を過ごせます。 もちろん、自己導尿にもデメリットはあります。 ・導尿カテーテルは消耗品なので費用がかかる どの導尿方法が最適なのか、手間や費用、使い方などを医師と相談しながら、取り入れるようにしましょう。自己導尿について
「間欠自己導尿」では、尿が膀胱に溜まってきたら、カテーテルという管を尿道から膀胱に挿入し、尿を排出します。
・残尿により尿路感染が起こると、腎臓に細菌が広がり腎機能に障害(水腎病)が起こります。自己導尿により尿路感染を防ぎ、腎機能を正常に保てます。
・排尿するたび(1日5回~以上)にカテーテルを取りつけるのが面倒
・導尿カテーテルを常に持ち運ばないといけない
・ご自身で操作を覚える必要がある。特に女性は男性と違い尿道を探すのが難しい
自己導尿をはじめるには
自己導尿に使用するカテーテルには、「再利用可」「ディスポーザブル(1回限り使用)」の2種類のタイプがあります。また、ディスポーザブルにも、潤滑剤を塗るタイプと塗らないタイプがあります。
潤滑剤は、尿道口からカテーテルを挿入する際に滑りをよくするために用います
費用 | 消毒液 | 潤滑剤 | 清浄綿 | |
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再利用可 | 安価 | 〇 | 〇 | 〇 |
1回使い捨て | 高価 | 〇 | 〇 | |
1回使い捨て(親水コーティング) | 高価 | 〇 |
親水コーティングがあるものは便利な一方、やはり高価な上に、複数回使用ができません。どのタイプがご自身に最適なのかは、医師と相談の上判断が必要です。
再利用可の導尿カテーテル
ディスポーザブルタイプ(要潤滑剤)
清浄綿
使用方法(必ず医師の指示または製品に添付している添付文書の内容を確認ください)
①挿入前は石鹸で手指を洗浄し流水で洗い流します。
②衣服を下げて、導尿しやすい姿勢になります。
③陰部にあたる尿道口を清拭します。
④カテーテルに潤滑剤を塗ります(親水性コーティング済みのカテーテルの場合は不要です)。
⑤尿道口からカテーテルを挿入します。呼吸しながら15~20cmほど膀胱に向けて挿入します。このとき痛みを感じたら無理に挿入しないよう気を付けてください。無理に挿入すると尿道を傷つけてしまいます。
⑥排尿し、しっかり出し切ります。
⑦静かにカテーテルを抜きます。
⑧使い捨てのカテーテルは廃棄してください。(自治体のごみ廃棄法に従ってください)再利用可のカテーテルは内腔と外側を水道水で洗浄し、消毒液の入ったケースに保管します。
※⑤:女性の場合は、片手で陰部を広げて、尿道口からカテーテルを4~6cm挿入します。
排尿は、老廃物を体内に排出するために必要不可欠です。加齢とともに腎機能が低下するだけでなく、膀胱の筋肉が衰えたり、他の疾患によって排尿障害に見舞われたりすることも。
生活の質を落とさず、いつまでも排尿のストレスを感じることなく過ごすために、ご自身にあった自己導尿を見つけるようにしましょう。
そのためにも、夜間頻尿が続いたり、尿の出が悪くなったりと症状を感じたら、泌尿器科に受診し専門医に相談するように心がけましょう。
尿を排出するための管で、尿道から膀胱へ挿入することで排尿を補助できます。 排尿に違和感・症状を感じたらまずは医師にご相談。よくある質問
導尿カテーテルとは?
導尿カテーテルには使い捨てと再利用可の2種類があります。また、挿入が楽になる潤滑剤を使用するタイプもございます。自己導尿を始めるには?
排尿を補助する導尿カテーテルにも種類がございますので、ご自身のライフスタイルに合ったものを選んでください。