医療用ガウンとは
ガウン(gown)と聞くと、長い羽織の洋服や就寝前パジャマの上に着る羽織、また海外の大学や日本の大学の一部で卒業式に着る式服のアカデミックガウンを想像します。一方、医療業界では医療用ガウンが日常的に使用されており、用途により種類や素材、特徴があります。
本コラムでは医療用ガウンの種類やPPE(個人用防護服)についてご紹介します。
医療用ガウンの目的
医療用ガウンは、医療従事者の感染防止や患者のケアのために着用します。そのため、形状は長袖で体の前面を覆う後ろ開きが主流です。
医療従事者を守る:患者の体液・血液、またこれらを介する病原体(=湿性生体物質※)から守る 患者を守る:無菌状態で処置が必要な際、空気中の埃・塵・病原体から守る
※湿性生体物質 血液や体液、排泄物、痰や膿などの分泌物、粘膜、損傷した皮膚など
医療用ガウンの種類
医療用ガウンには大きく3種類あります。
1. 防護服
防護服は化学薬品や危険物質、放射線曝露物質、ウィルスから人体を守るために着用します。感染現場の消毒や廃棄物処理などのシーンで使われるので、体のほとんどを覆うようにできています。
そのため簡単に着脱はできず、長時間の作業に着用します。
なお、対象の危険物質により規格が求められており、防護服はJIS規格T8115の認証が必要です。
2. アイソレーションガウン
アイソレーションガウンは医療の現場で使用するので、広く愛用されています。軽量で着脱も簡単なうえ、撥水性があるので患者の血液や体液から守ることができます。また、袖口がゴムになっているため手首にフィットし、袖口からの侵入も防ぎます。
素材は、不織布とプラスチック製が主流です。不織布のガウンは通気性が良いので長時間作業が可能です。一方、プラスチック製はバリア性能が良いものの、通気性が不織布よりも劣るため長時間の作業には不向きでしょう。
なお、アイソレーションガウンも使い捨てがほとんどです。
3. サージカルガウン
サージカル(surgical)は英語で手術、外科を意味します。主に手術室で使用するので、血液や体液、粒子へのバリア性が高く浸透しにくい素材でできているうえに、ガウンは滅菌済みです。また、手術は長時間かかり汗もかきやすくなるため、安全性はもちろん、着心地も大きなポイントです。
なお、アイソレーションとの違いは、サージカルマスクと同様にガウンのバリア性能により区別します。
参考までに、エプロンとガウンの違いは袖のありなしです。エプロンは腕への曝露がありますが、体幹部分の液体の浸透を防止します。また患者の食事の介助、入浴排泄の介助などに着用します。
ガウンの着脱方法
医療用ガウンは後ろ開きになっているので、前身側から覆うように着ます。着用前は手指消毒をしましょう。
- ① ガウンを首にかけて膝から首までしっかりガウンで覆い、片方の袖から通す
- ② 首ひもと腰ひもを結ぶ
ガウンを脱ぐ時は、感染が広がらないように注意することが必要です。ガウンの表面は汚染されているので、間違った方法で脱いでしまうと、自身だけではなく周囲も汚染してしまいます。必ず適切に脱ぐようにしましょう。
- ① 後ろの首ひもを外す、腰ひもは必ず残したままにする
- ② ガウンの表面を触らないように袖口から手を抜く
- ③ 腕を残しながらガウンが裏返るように脱ぐ
- ④ 表面を触らないように巻き上げる
- ⑤ 前に引っ張って腰ひもを切る
- ⑥ 廃棄する
- ⑦ 手指消毒をする
エプロンも同じく表面を触らないよう、最後に腰ひもを引っ張って切り、丸めて廃棄します。
当然ですが、ガウンはディスポーザブル(使い捨て)なので再利用はできません。汚れ目がないからといって再度着用することはできないので、着用後は必ず廃棄します。また、廃棄後は手指消毒を徹底しましょう。
AAMIバリア性能基準について
アイソレーションガウンとサージカルガウンの違いはバリア性能基準の違いですが、医療用ガウンで定められているバリア基準とはどのようなものでしょうか。
アメリカの医療機器振興協会(Association for Advancement of Medical Instrumentation)は、「AAMI(エイミー)レベル」という4つの防護レベルを定めています。水、合成血液、バクテリオファージなどへの液体防御性能基準をもとに、防護レベルを区分します。
以前はサージカルマスクの基準もアメリカのASTM適合品が流通されていましたが、現在は日本のJISで規格基準が制定されています。ガウンのような防護服については日本の規格は今のところなく、流通されているガウンはこのAAMIレベルを基準としています。
レベル | 防護効果(血液・液体量の目安) | 手術時間の目安 | 手術例 |
---|---|---|---|
レベル1 | 極少量 | 極短時間 | 曝露がほとんどない短時間の手術 |
レベル2 | 少量(≦100ml) | 1時間以内 | 内視鏡下手術、白内障手術など |
レベル3 | 中量(100~500ml) | 1~3時間 | 一般的な開腹手術、乳房切除術など |
レベル4 | 多量(500ml以上) | 3時間以上 | 多量の血液曝露や液体使用が予想される手術 |
※防護効果や時間はあくまで目安です。実際の手技や感染症の有無により異なります。
ガウンの説明にAAMIレベル〇と記載されていたら、どの用途で使用できるか目安になるので、確認するとよいでしょう。
PPE(個人用防護服)とは
医療用ガウンやエプロンだけではなく、血液や湿性生体物質から身を守るためのツール類(マスク、ガウン、手袋など)を、PPE(Personal Protective Equipment=個人防護服)と呼びます。
PPEの目的
感染を広げないようにすることが、PPEの目的です。
例えば、使用済み針を誤って刺さないよう切創防止したり、血液や湿性生体物質に触れないように感染経路を完全に遮断したりするためにはPPEが有効です。PPEを身につけることで、医療従事者や患者を湿性生体物質から守れます。
PPEの種類
主なPPEの道具はマスク、手袋、ガウンやエプロン、フェイスシールド、ゴーグルです。他にも、シューカバーや不織布キャップなどがあります。
手の汚染を防ぐ | グローブ |
---|---|
体の汚染を防ぐ | ガウン、エプロン、シューカバー |
顔や鼻の汚染を防ぐ | マスク、フェイスシールド、ゴーグル、キャップ |
PPEの取り扱い
PPEを装着する際は、汚染物に感染しないように正しい順番で着用することが求められます。
- ① まずしっかり手指消毒を行う
- ② ガウン(エプロン)を装着する
- ③ マスクをつける
- ④ フェイスシールド(ゴーグル)をつける
- ⑤ キャップをかぶる
- ⑥ 足元をシューカバーで覆う
- ⑦ 最後にグローブを装着する
逆に脱ぐ時は、汚染を広げないために汚染しているものから外します。また、汚染面を内側に閉じ込めるように脱ぎまます。
- ① グローブを外す
- ② ガウン(エプロン)を脱ぐ
- ③ 手指消毒する
- ④ キャップを外す
- ⑤ マスクを外す
- ⑥ シューカバーをとる
- ⑦ 袋にすべて閉じて処分、最後に手指消毒
おすすめのガウン
AAMIレベル2、3のガウンをはじめ、袖口がゴムではなく伸縮性のニット仕様になっているので、締め付けがないものが主流です。また、蒸れはもちろん、静電気を防止する加工があるため、埃や塵も防ぎます。
AAMIレベル2に適合しているガウン
一方、1回分PPEセットは訪問看護や往診・外来時に持ち運びが可能です。診察や処置が終わったら脱いで、袋に入れてそのまま廃棄できます。
医療用ガウンは医療現場だけではなく、介護施設や保育・教育現場で活躍できます。また、防護服を含めると、様々なシーンで着用が求められることがあります。 いざという時のために、正しい医療用ガウンの選び方や着脱方法を見直してみましょう。
よくある質問
医療用ガウンとは?
主には血液や病原菌から医療従事者から守るために着用します。また、医療用エプロンとガウンの違いは袖のありなしです。
医療用ガウンの目的は?
医療従事者を守る:患者の体液・血液、またこれらから介する病原体から守る
患者を守る:無菌状態で処置が必要な際、空気中の埃や塵や病原体から守る