2020年初頭、新型コロナウィルス感染症の影響で、世界的にサージカルマスクが不足しました。
これはサージカルマスクの原料である不織布やゴムがなくなり、医療の現場での供給を最優先としたためです。今までドラッグストアやコンビニエンスストアで24時間、いつでもどこでも販売されていたはずのサージカルマスクは、瞬く間に入手できなくなりました。
今までドラッグストアやコンビニエンスストアで24時間、いつでもどこでも販売されていたはずのサージカルマスクは、瞬く間に入手できなくなりました。サージカルマスク不足により、布・ガーゼマスクやウレタンマスクを手作りする方も多くいました。
また、サージカルマスクにフィルタを挟んで数日使用することも。欲しい人にマスクを届けるために、異業種メーカーがマスクの生産ラインを設置しMADE IN JAPANのマスクを製造販売する、買占めや転売防止のためオークションサイトなどでは感染対策製品の出品が禁止になるなど、2020年はまさに「マスク消費」の年といっても過言ではありませんでした。
医療現場とは異なり、今までは普段マスクを使用するのは、風邪やインフルエンザに罹った時や花粉症予防、給食の配膳、掃除や埃避けがほとんど。これほどマスクが日常生活の必需品になるとは思いもよりませんでした。
マスクを着ける機会が増えたコロナ禍の中で、改めてマスクの種類の多さやフィルタの効果を知る機会が増えたのではないでしょうか。
「商品名に『サージカルマスク』と書いているから」「なんとなくサージカルとついたほうが安心できるから」という理由でサージカルマスクを使われている方が少なくありません。
本コラムでは、「サージカルマスク」とはどういった種類で、どんな特徴があるのかご紹介します。
医療現場で使用するマスクは「咳やくしゃみなどによる飛沫の飛び散りを防止」「血液・体液の飛散から口や鼻を守ること」が着用目的とされています。 もともと「サージカル(surgical)」は「外科の」「手術の」という意味です。「サージカルマスク」は広義的に医療現場もしくは医療的に使用されるマスクを指すと言われています。 日本の医療現場で使用するマスクは国際基準化規格制定機関ASTM(American Society for Testing and Materials:米国試験材料協会)のF2100をクリアしたマスクを使用しています。 そのため、ASTM規格に基づいたマスクをサージカルマスクと分類することが多かったようです。 そして、2021年6月に日本で医療用マスク・一般用マスク・感染対策医療用マスクの日本産業規格(JIS規格)が制定されました。 先述のとおり、今までは日本国内独自のマスクの衛生面や安全性についての基準がありませんでした。しかし、一定の性能基準を満たしたマスクが製造され流通させることを目的に、試験方法の標準化を図り制定されたのです。 各メーカーもこのJIS規格を合格した商品を販売する動きが見られています。JIS規格に合格したマスクは医療従事者だけではなく、一般の消費者が安心・安全にマスクを着用できるようになりつつあります。 さらに外国からも「日本基準のJIS規格合格=高品質なマスク」と認められる日も近そうです。 「どのマスクが良いか」「どのマスクを買えばよいか」と悩んだら、この『JIS規格』があるかないかの確認をおすすめします。 一方、JIS規格以外に、購入したマスクの外装に全国マスク工業会のマークが印字されているのをご覧になったことがあると思います。 こちらは一般社団法人日本衛生材料工業連合会に参加しているマスクを専門に扱う業界団体で、2005年に発足しました。 ASTMの試験について推奨されている検査機関を持っており、検査結果のデータの確認などを行っています。 このマスク工業会の承認が得られた商品にのみ全国マスク工業会のマークをパッケージに掲載することが可能です。 JIS規格はまだ新しい制度のため申請中、またはこれから申請する商品も多く、この全国マスク工業会のマークがあるかないかを確認することも安心して着用できる目安になりますね。サージカルマスクの定義
ASTM F2100-20: Standard Specification for Performance of Materials Used in Medical Face Masks. 2020
特性
レベル1
レベル2
レベル3
細菌濾過率(%) BFE
≧95
≧98
≧98
微粒子濾過率(%) PFE
≧95
≧98
≧98
呼気抵抗(mmH2O/cm²)
<5.0
<6.0
<6.0
血液不浸透性(mmHg)
80
120
160
延燃性
Class1
Class1
Class1
1. PFE微小粒子捕集効率:空気中を浮遊する微小粒子を捕集する割合
医療用マスクの品質基準(JIS T9001:2021)
項目
単位
品質基準
試験方法
(箇条番号)
クラスⅠ
クラスⅡ
クラスⅢ
微小粒子捕集効率(PFE)
%
≧95
≧98
≧98
5.1.1
バクテリア飛まつ捕集効率(BFE)
%
≧95
≧98
≧98
5.1.2
ウイルス飛まつ捕集効率(VFE)
%
≧95
≧98
5.1.3
圧力損失
Pa/cm²
<60
<60
<60
5.1.5
人工血液バリア性
kPa
10.6
16.0
21.3
5.1.6
可燃性
―
区分1
区分1
区分1
5.1.7
遊離ホルムアルデヒド
㎍/g
≦75
5.2.1
特定アゾ色素a)
㎍/g
≦30b)
5.2.2
蛍光c)
―
著しい蛍光を認めず
5.2.3
注a) 着色又は染色された製品医ついてだけ試験を適用する。
注b) 生成された特定芳香族アミン24種それぞれが30㎍/g以下でなければならない。
注c) マスクの呼吸に係る本体部(耳掛けゴムなどの付属品を除く。)だけに適用する。
2. BFEバクテリア飛まつ捕集効率:咳やくしゃみ、会話時の飛沫時のバクテリアを含むエアロゾルを捕集割合
3. VFEウイルス飛まつ捕集効率:咳やくしゃみ、会話時の飛沫時のウイルスを含むエアロゾルを捕集割合
4. 圧力損失:息のしやすさ
5. 人工血液バリア性:手術時や処置中に、飛散しマスクに付着した体液がマスク裏面に浸透するかどうか
サージカルマスクのほとんどは不織布でできています。不織布とはその名のとおり「不=織られていない布」です。 不織布は織られている布とは違い、繊維を一定方向またはランダムに織り合わせ、接着樹脂で接着する、機械で絡ませる、圧や熱で結合・固まらせるなどして、一枚のシート状になるように作られます。 これまでの日常生活で触れてきた不織布で馴染みがあるのは、手芸で使用するフエルトがわかりやすいかもしれません。また様々な素材を組み合わせて繊維状にするため、比較的安価でほつれることもありません。 マスク以外にも、手術着、おむつ、生理用品、ウェットティッシュ、キッチンペーパーやフィルタ、洋裁で使用する接着芯も不織布からできており、不織布は様々なシーンで使われています。耐久性が低いため使い捨てが多く、その特徴を活かして衛生用品に多いのも理解できます。 ノーズワイヤーはノーズフィッターやノーズフィットとも呼ばれ、鼻の形に合わせてマスクと顔の隙間を無くすためにマスクの上部に入っています。 素材はワイヤーやポリエチレンがほとんどで、鼻の形にあわせるように折り曲げて使用します。 隙間からウイルスや菌、体液や血液の侵入を防ぐために作られているので、医療現場で使用するサージカルマスクには必須です。またメガネの曇り防止にも役立ちます。 サージカルマスクは紐タイプのものがあります。紐タイプの場合、手術中にズレにくく、顔にしっかりフィットするように、耳にかけるのではなく後頭部でしっかり紐で結わえる仕様になっています。 しかし、日常生活で感染予防のために紐タイプのマスクを使うのは、付けはずしするのに不便です。 そのため、普段使いのマスクは耳ゴムタイプが主流となっています。ゴムの素材はナイロンやポリエステルが多いようです。ゴムの厚さや種類によって耳への負担が大きく左右します。 耳が痛くならない、かゆくならない、そして柔らかいゴムが理想ですが、個人差もあるので、ご自身にあった耳ゴムの見極めが必要です。 またマスクの形状によっては、ウレタンマスクのようにマスクの面と耳にかける紐部分が一体になっているタイプもあります。サージカルマスクの素材
①不織布
②ノーズワイヤー
③耳ゴム
医療現場では不織布のサージカルマスクの着用が基本です。普段使いのマスクは、休憩時間の食事の合間にカバンやポケットに入れて、また再利用することが多いです。 しかし、医療の現場ではウイルスや菌の拡散を防ぐために、はずすたびに捨てて、都度新しいサージカルマスクを着用します。そのため30-50枚入りの箱マスクを常備しています。 また、飛沫が顔や目に付着しないようにサージカルマスクの上部にはめる目をガードするシールドもあります。 結核などの呼吸器感染症の職業感染予防を目的としたN95マスクもあります。N95規格とは米国NIOSHが制定した呼吸器防護具の規格基準です。 N95マスクはその規格に合格したものを指します。N95タイプの微粒子ろ過マスクは、産業分野では防塵マスクとして使用されてきました。 また、医療分野では、結核菌の伝播予防のために、感染症結核の疑いがある患者や結核と診断された患者の隔離した部屋に入室する場合、N95マスクといった防護具が必要とされています。 N95マスクは固体粒子が舞っている環境下で使用し、フィルタの捕集効率95%が保証されているマスクです。カップ型、二つ折の折りたたみ式など、形状は様々です。 一方、KN95マスクというマスクもありますが、どういったマスクかご存知ですか。2022冬季オリンピックで選手や関係者が装着するマスクの表面にKN95が印字されていたので記憶に新しいのではないでしょうか。 KN95は中国の規格GB2626-2006に準じて作られたマスクです。フィルタの性能的にはN95と同等の基準をクリアしています。 なお、KN95マスクのうちGB19083‐2010の番号があるものが医療用規格として流通しています。ただし、米国労働安全衛生研究所(NIOSH)でKN95マスクの性能検査を行ったところ、一部偽造品が見つかったと報告がありました。 全てのKN95が偽造品というわけではありませんが、購入や使用には注意が必要です。医療現場で使用されるサージカルマスク
サージカルマスクの多くは中国で生産されています。原材料や人件費、工場の運営など様々な条件が、消耗サイクルの高いマスク製品の生産に適しているので、中国産が多いのが現状です。 日本のメーカー(特に全国マスク工業会に加入済み)は衛生基準を満たした中国の工場で生産したものを輸入し、公的機関で検査に合格したものを流通しています。 また、素材の不織布から製造まで一貫して日本製のマスクも多数あります。やはり日本の工場で製造されたものは安心する方が多く、当店でも人気の商品です。 最近では日本のメーカーが台湾の工場で生産したマスクを日本で発売するケースも増えています。 もちろん国内でテストをしてASTM F2100-11 レベル2をクリアしているので、毎日使うものだけに節約目的であれば、こちらのマスクもおすすめです。サージカルマスクの生産国
サージカルマスクを装着する際、どれくらいウイルスや飛沫を防止できるかの指標である「BFE」や「PFE」の数値も重要ですが、サイズも重要です。 サイズが大きすぎると、顔に隙間ができてウイルスや菌の侵入を防げません。逆にサイズが小さすぎると、マスクで覆えない面が増えてしまうだけではなく、ゴムが引っ張られた状態で耳や顔に痛みや違和感が生じてしまいます。 そのため、適切なサイズを選ぶようにしましょう。現在はレギュラーサイズ、大きめサイズ、小さめサイズ(女性や小学校高学年~中学生)、小さなお子様サイズ(園児~小学校低学年)と豊富なサージカルマスクがございます。 また、普段使いの際は、密の状態や家族以外の人が集まるような場ではサージカルマスクを使い、逆に人が密集せず換気が良いところでは、布や息がしやすい2層マスクなど、使い分けもおすすめです。おすすめのサージカルマスク
①マスクの表裏を確認します。 マスクの表裏は耳ゴムの接着面で判断することが多いようです。また、マスクのプリーツが下を向いている側が表と覚えておくとよいでしょう。 ただしメーカーによってはマスクの表面にロゴや「おもて」と印字されたものがあるので、パッケージの取り扱い方法をご覧になって、表裏を確認してください。 ②ノーズワイヤーは鼻の高さに調節するので、必ず上部になるように。 ③耳ゴムを持ち、マスクを広げます。 ④耳にかける前に、マスクを顔にあて、ノーズワイヤーを鼻のカーブに合わせます。 ⑤マスクを顔にフィットさせながら、耳にゴムをかけます。 ⑥顔の大きさにあわせてプリーツを上下に広げて調整してください。 ついつい耳から先に装着しがちですが、基本的な使い方はまずノーズワイヤーで鼻の高さに合わせてから!少しでも隙間があるとウイルスや菌の侵入、また飛沫の原因になるので、正しいマスクの付け方を習慣づけましょう。サージカルマスクの使い方
サージカルマスクだけではなく、マスク処分はエチケットとして身に着けた方がよいでしょう。マスクの表面には多くのウイルスや菌が付着しています。 また、裏面、すなわち口があたる面が、多くの飛沫や鼻水が付着しています。使用済みのマスクから感染が広がる可能性があります。 マスクはゴミ袋に入れたり、ティッシュでくるんだりして直接手に触れないようにして処分してください。またマスクを処分したら手洗いも忘れずに。 いかがでしたか。サージカルマスク自体の定義はありませんが、2021年日本でJIS規格が制定され、その規格をクリアしたマスクが広く流通するようになってきました。 ハートプラスではJIS規格をはじめ、医療現場でも使用されているマスクをサージカルマスクとして販売しています。 一時のマスク不足やマスク高騰も落ち着いたとはいえ、まだまだマスクの着用が必要です。ご自身のサイズやフィット感に合うサージカルマスクをお求めください。サージカルマスクの処分方法