「増やさない」「くっつけない」「やっつける」食中毒予防の3原則

目次

食中毒とは

食中毒とは、食中毒を引きおこす細菌、ウィルス、寄生虫、化学物質などが食べ物を介して、体内に入り腹痛、下痢、嘔吐などの症状を引き起こす健康被害です。菌やウィルス、寄生虫はさまざまな環境下で、飲食物に付着してから急激に増殖し、毒素を産出します。近年では衛生管理が徹底され、食中毒は減少傾向にありますが、一般家庭や飲食店はもちろん、学校や介護施設などの施設で発生すると、大規模な食中毒の被害が出てしまうので、まだまだ注意は必要です。

直近5年間の食中毒発生件数は変動があるものの、700~1400件の幅で推移しており、令和4年の食中毒は962件(患者:6,856人)報告されています。

引用:農林水産省 食中毒は年間を通して発生しています
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/statistics.html

2023年11月、アートイベントの催事場で販売された手作り菓子や遊園地内のキッチンカーで提供された飲食物から体調不良を訴えた健康被害を伴う食中毒が発生しています。「冬場だから大丈夫」という過信は禁物、ここで改めて食中毒の種類やその予防についてご説明します。

食中毒の症状

食中毒の症状は様々です。個人差や原因物質にもよりますが、代表的なものとしては下記のとおりです。食事の数時間後に、下記のような症状が出たら、食中毒の可能性が高いといえます。

  • ●腹痛
  • ●下痢
  • ●嘔吐
  • ●発熱

下痢や嘔吐が続くと脱水症状を起こす場合もあるので、水分補給を忘れずに。下痢や嘔吐が止まらなかったり、呼吸困難や意識障害といった症状がみられたら、ただちに医療機関へ受診しましょう。

食中毒のタイプ

食中毒は大きく5つのタイプに分けられ、さらに細菌性食中毒には3つの型があります。
・細菌性食中毒

感染型 食品に細菌が付着し、体内で増殖して食中毒を引き起こす 腸炎ビブリオ、病原性大腸菌、サルモネラ、カンピロバクターなど
食物内毒素型 食品に細菌が付着し毒素を産出、その食品を口にして食中毒を引き起こす 黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌など
生体内毒素型 体内に摂取された細菌が、腸管内で増殖し毒素を産出して食中毒を引き起こす。 腸管出血性大腸菌(O157など)セレウス菌(下痢型)など

・ウィルス性食中毒:ノロウィルスなど
・化学性食中毒:農薬、ヒ素、油の酸敗など
・自然毒食中毒:フグ毒、貝毒、毒キノコ
・寄生虫:アニサキスなど

なお、自然毒食中毒のフグ毒については、フグを調理するには免許が必要です。

発生しやすい時期

細菌が繁殖しやすいのは気温と湿度が影響します。特に梅雨時期から夏にかけては、気温と湿気が高いので、細菌性食中毒が起こりやすく、自治体等では食中毒を予防する注意喚起をよびかけています。ただでさえ夏場は食欲が落ちやすく、火を通さない食べ物を好まれますが、その分細菌が死滅しにくいのでリスクが高まります。一方、ノロウィルスのようなウィルス性食中毒は冬場に多くみられます。
アニサキスによる食中毒は季節を問わず年中通して発生します。そのため、最近スーパーや小売店では生魚の切り身のパッケージに「生食の際は、アニサキスにご注意ください」と注意喚起する店舗もあるほどです。

食中毒の原因

食中毒の代表的な菌やウィルスを挙げます。

食中毒の原因

細菌やウィルス

腸炎ビブリオ

腸炎ビブリオは海水や魚介類に生息する微生物です。4℃以下で増殖しないので、スーパーや小売店から生魚を購入した後、保冷剤を入れて持ち帰る、帰ったらすぐに冷蔵庫に入れるようにしなければ、菌は急激に増殖します。

カンピロバクター

カンピロバクターは主にニワトリや牛の内臓に生息する微生物です。低温では増殖せず、30~46℃で急激に増殖します。火に弱いので加熱調理で死滅しますが、鶏肉を調理するときはしっかり火を通さないとカンピロバクター食中毒の原因になります。
参考までに、生の鳥肉を刺身のように切り、表面だけ炙った鳥刺しがあります。全国的では限られたお店でしか流通されていないことがほとんどですが、宮崎・鹿児島県では生食用食鳥肉の衛生基準が独自に設けられており、スーパーマーケットでも市販されています。

サルモネラ菌

サルモネラは人をはじめ鶏・豚・牛などの腸管や河川下水道に生息する微生物です。河川に生息するのでウナギにも生息しています。またネズミやゴキブリ、犬や猫などのペットも菌を保有しています。食中毒の経路は卵や食肉、ウナギ、これら加工品を介すことによります。
参考までに、鳥の糞便から卵の殻に菌が付着するので、卵の殻を割る時に汚染されやすく生で卵を食べることは避けられています。特に海外では卵を生で食べることはほとんどありません。一方、日本では鶏舎の衛生管理が徹底されており、卵の殻をきちんと洗浄殺菌して流通されるので生で食べることができるのです。ただし賞味期限を過ぎた卵や、免疫力が低い高齢者や小さなお子様には注意が必要です。

病原大腸菌

大腸菌は人や家畜の体内や糞便に生息し、ほとんど害を及ぼさない常在菌ですが、同じ大腸菌でも病原大腸菌は下痢や消化器症状を起こすものがあります。さらに毒素を産出し、腸炎や溶血性尿毒症症候群を発症する腸管出血性大腸菌があります。国内では焼肉店などの飲食店や加熱不足の食肉を食べたことにより発生し、同時に、腸管出血性大腸菌が付着した別の食材から広がるケースもあるので、いくら肉に火を通したからといって、
海外では1982年アメリカのマクドナルドで発生したパティ(肉)の加熱が足りなかったため、腸管出血性大腸菌0157によるハンバーガーの食中毒事件を発端に、1994年アメリカのジャック・イン・ザ・ボックスのハンバーガーでは732人が発症し、4人の子供が亡くなっています。
日本では1996年岡山県、大阪の学校給食で腸管出血性大腸菌O157よる大規模で、痛ましい集団食中毒が発生しました。当時はどの食材が原因だったのか、すぐに解明することができずに混乱をきたしました。

セレウス菌

セレウス菌は自然界には広く生息する細菌です。熱に強い芽胞をもつ微生物なので、100℃/30分の加熱しても、菌は死滅しません。増殖すると毒素を産出します。チャーハンや炊飯後のご飯は冷めたら室温放置せずに、すぐ冷蔵庫に入れなければ、どんどん菌が繁殖して毒素を産生します。いくら電子レンジで温めても菌は死滅しないので、食中毒のリスクが高まります。

ノロウィルス

ノロウィルスは細菌ではなくウィルスで、感染性胃腸炎や食中毒の感染経路は経口感染で、ウィルス保持者の手指や触った食品を介して感染します。感染すると腸管内で増殖し腹痛や嘔吐、下痢の症状を起こします。ウィルスといえばワクチンと思いますが、残念ながらノロウィルスにはワクチンはありません。そのため感染しないように努めるのが最善策でしょう。

寄生虫

食中毒の原因となる寄生虫で最も多いのはアニサキスです。アニサキス幼虫は鮮魚介類の内臓に寄生しています。切り身(サバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、サケ、イカなど)を購入すると、白く細長くニョロっとしたものが付着していることがあります。これがアニサキスの幼虫です。

寄生虫

細菌のように増殖したり大きくなることはありませんが、体内に入り胃腸や胃壁に侵入すると激しい痛みを伴います。冷凍や加熱が有効ですが、生食する場合は目視で確認するようにしてください。(しょうゆやワサビでも死滅しません)

食中毒予防の三原則

食中毒予防の三原則

このように食中毒は、自然界にいる常在菌が好条件のもとで増殖・毒素を産生するケース、鮮魚介の内臓に生息するアニサキスによるもの、フグや毒性キノコももともとその生物に常在する物質が人間に対して毒性を持つケースなど、自然界に存在する生物や物質なので完全にその原因を取り除くことは難しいといえます。

そこで食中毒予防の三原則があります。「増やさない(迅速)」「つけない(付着しない)」「やっつける(死滅)」を実践して、食中毒を防ぐように心がけましょう。

食中毒予防の三原則

増やさない

菌を増やさないために、すぐに食べるか、冷蔵保存しましょう。最近は飲食店に行かなくても、食事を自宅や会社等に届けてくれるサービスが増えていますが、どうしても調理してから食べるまでの時間が長くなってしまいます。菌が増えるリスクが高まるので、デリバリーや持ち帰りで買った飲食物は早く食べるように心がけましょう。また、デリバリーする食事もなるべく生ものを避けるようにしてください。
また、スーパーなどで購入した食材も、保冷剤や保冷バッグを活用し、家に帰ったら直ちに冷蔵庫に入れましょう。

つけない

手指は無菌状態ではなく、さまざまな常在菌が付着しています。調理する際は、生もの(肉、魚、加工品、卵)に触れるので、手洗いは必須です。新型コロナウィルス感染症を予防する際も、手洗いが推奨されていましたが、食中毒の予防も同様です。ウィルスや食中毒の原因となる菌を洗い落とすためにも、必ず食事の前や調理中はこまめに手を洗うようにしてください。

つけない
アルボース 泡の色が変わるハンドソープ

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シャボン玉石けん バブルガード

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さらに、生の肉や魚を切った包丁やまな板も使用後はきれいに洗い、殺菌するようにしてください。包丁やまな板を洗剤で洗い、しっかり水ですすいだら熱湯をかけて消毒殺菌も効果的です。またすすぎが不要なアルコール製剤は、調理具を洗剤で洗い終わったら、シュッとかけるだけで除菌できるので便利です。

JM(ジェームズ・マーティン)フレッシュサニタイザー

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つけない

やっつける

ほとんどの菌やウィルス、寄生虫は熱に弱く、加熱により死滅します。食肉は中心部を75℃で1分以上加熱することが望ましいと言われています。また、まな板、包丁などの調理器具やふきんにも菌が付着しやすいので、包丁やまな板は調理毎に洗って使用する。使用後は熱湯をかけるのもよいでしょう。
お皿を拭いたふきんは、半乾きの状態での常温放置は危険です。できるだけ速やかに交換し、使用済みのふきんは一晩漂白剤につけるなどして、衛生に保つようにしてください。
最近では使い捨てのペーパータオルもあります。
日本製紙クレシア スコッティファイン 洗って使えるペーパータオル
https://www.heart-p.jp/view/item/000000002490

普段の生活で意識すること

厚生労働省が発表した2022年の食中毒施設別発生状況によると、該当年の食中毒発生件数が962件でそのうち家庭内食中毒が130件で全体の13.5%です。届出をしていない家庭もあると思われるので、実際の発生件数はもっと多いかもしれません。

4.食中毒統計資料 令和4年(2022年)食中毒発生状況[Excel形式:55.5KB]
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html

日本の平均気温は100年で平均1.3℃も上昇し、特に夏場は最高気温が35℃を上回る猛暑日が増えています。そのため、お店で食品を購入後の持ち帰り中の保冷、すぐに冷蔵庫に入れるなど対策をしなければ、資菌やウィルスの増殖は昔に比べると早くなっているので、食中毒のリスクは高まります。
食中毒は過去の経験の過信が一番禁物です。

2日目のカレー

「2日目のカレーがおいしい」からといって、加熱後のカレーをそのまま常温で放置しておくと、菌、特にウェルシュ菌が増殖し、食中毒の原因になります。カレーは冷めたら小分けにして冷蔵庫で保冷してなるべく早めに食べきるように心がけましょう。

煮出したお茶

カレーと同様に、煮出したお茶も放置すると菌が繁殖しやすくなります。(麦茶は30℃前後で菌が増殖します。)煮出し終わったら、氷水につけて急冷するか、水出しパックを利用するのも良いでしょう。

牛レバーの生食

日本では2012年食品衛生法改正により、牛レバーを生食用として販売・提供することができなくなりました。生の牛レバーは腸管出血性大腸菌が検出されており、食中毒のリスクがあります。家庭での調理も禁止されていますし、飲食店でも必ず火を通すことを徹底するよう言われており、もし生食用として提供・販売した場合、食品衛生法第11条第2項違反となるので、注意してください。

「食あたりに罹ったことがない」「酸っぱくなった牛乳を飲んでも大丈夫だった」「期限切れでも食べられた」といった過信は禁物です。普段から調理前、食事前の手洗い、調理器具の衛生管理を徹底して、生や調理済みの食品に触れる際は、清潔な環境を保つように心がけましょう。

よくある質問

食中毒が発生しやすいのはいつですか?

梅雨が始まる頃から夏場は、湿度と気温上昇に伴い、菌が繁殖しやすくなります。冬はノロウィルスが流行しやすいですし、近年ではデリバリーや持ち帰りが増えているので、通年で食中毒の原因となる菌やウィルスを増やさないよう注意が必要です。

アニサキス症をどのように予防すればいいですか?

アニサキスは魚介類の内臓に寄生する虫です。鮮度が落ちてくると内臓から筋肉に移ってきます。人には寄生しませんが、体内に入ると腹痛、吐き気、嘔吐など激しい痛みを伴います。アニサキスは60℃以上加熱で死滅しますが、刺身などの生食を調理する時は、内臓を早めに取り出したり、切り身にアニサキスが付着していないか観察しましょう。

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