高齢者のための防災対策
日本は諸外国よりも自然災害が多い国です。最近では、地震や台風だけではなく、ゲリラ豪雨による大雨や洪水、土砂災害の頻度が増えています。特に日本は火山国で、活火山が111山もあり、地域によっては避難せざるを得ないほどの火山噴火が発生しています。
参考までに、2003年に火山噴火予知連絡会が「概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」を活火山と定義しました。※世界の活火山の約7%が日本です。
※引用:国土交通省 気象庁 活火山とは
このように自然災害が多く防災意識が高まる中、高齢者社会も進んでいます。高齢者や介護が必要な方は防災意識が低く、普段からの備えが不十分です。そこで今回は、高齢者や高齢者世帯のいざというときの防災についてご紹介します。
高齢者世帯ができるご自宅での防災対策
内閣府の発表によると、65歳以上の高齢者がいる世帯は全世帯の約半分という統計がでており、一人暮らしの高齢者が増加傾向にあるのです。※
※引用:内閣府 平成29年版高齢社会白書
一人暮らし、ご夫婦だけ、兄弟や子供と同居など、高齢者世帯はさまざまです。そのため、防災への意識も異なるので、もし同居されていればみんなで話し合う、別居していれば里帰りの時に確認するようにしましょう。
動線を確保し、部屋に物を置かない
災害が発生したときにすぐ避難できるように、ドアや玄関周りをすっきりさせるようにしましょう。高齢者は室内での行動範囲も狭くなり、手が届くところに物を置きがちです。逃げるときに物が散乱してしまい、サッと移動することができずかえって転倒したり、足場がなくなったりする可能性があります。
避難経路の動線を確保して、物を片づけるようにしましょう。特に車いすを使用している場合は、より広い動線の確保が必要です。
家具には転倒防止を
家具には、必ず転倒防止のストッパーや突っ張り棒などの対策をしましょう。寝室に家具を置くこともあまり望ましくありません。家具の上に物を置くことや、高い位置にガラスのような割れ物を置くのも、落下の危険があるので注意が必要です。
手助けが必要
家具のレイアウト変更や転倒防止策を、高齢者自身で作業するのは非常に困難です。高い台に乗り誤って転倒するなど、ケガのリスクも高まります。できるだけ里帰り時や訪問介護時に、ご家族やヘルパーさんが相談に乗るようにしましょう。
高齢者が避難するときの対応について
次に、高齢者が避難するときには、どのような点を注意すればよいでしょうか。
非常時のための持ち出し袋
非常時の持ち出し袋が発売されているので、用意しておきましょう。共通して中に入っているものは1~3日分の水や乾燥の食料、ヘルメットやソーラー式充電池、トイレットペーパーや簡易トイレ、ろうそくなど挙げられます。
最近では、女性用や子供用など世代別の持ち出し袋もあるようです。一方、高齢者向けの持ち出し袋の内容はどうでしょうか。
通常の持ち出し袋に加えて、高齢者の持ち出し品として特徴的なのは下記の品々です。
- ・老眼鏡
- ・携帯用の杖
- ・常用薬やおくすり手帳
- ・口腔ケア(入れ歯ケア)
- ・紙おむつや使い捨てトイレ袋
- ・食事はお粥類
- ・健康保険証やマイナンバーカード
- ・貴重品
- ・助聴器
携帯用の杖やおむつは普段それほど使うことがなくても、災害がきっかけで足を痛めたり避難所のトイレは数に限りがあったりと、トイレに行くことが困難な状況になりえるため、持っておく必要があります。
また、口腔ケアはシートタイプであれば、水のゆすぎが不要で便利です。
食事は、乾パンのような固い食べ物を高齢者が食べることは難しいため、お粥や舌で噛めるような保存食を常備しましょう。また、糖尿病など持病で食事制限があれば、成分を確認しながら防災食を選ぶ必要があります。避難場所では音が広がりやすく、聴き取りにくいこともあるので助聴器があると便利です。
そして、常用薬がなくてもおくすり手帳があれば、その人の病歴やどんな薬を服用していたか履歴がわかります。普段から服用していても、カタカナが多い薬名を覚えている高齢者は少なく、避難所で薬が必要になったときにはおくすり手帳が力を発揮します。(東日本大震災時でもおくすり手帳は大活躍したそうです)
普段から使うおくすり手帳や貴重品、保険証は保管場所を1か所に決めて、災害時にすぐ持ち出せるように心がけましょう。
どこに避難する?
基本的にお住まいの地域に「指定避難場所」があります。災害発生後は、速やかに指定の場所へ避難してください。「避難所は落ち着かない」「プライベートが保てない」などの理由から自宅に留まろうと思っても、高齢者であれば避難までに時間がかかるだけに、自治体から避難指示がでたら速やかに移動しましょう。
一方、一人暮らしや高齢の夫婦、兄弟だけでお住まいの場合、どこに避難してよいかわからないかもしれません。自治体からの機関紙やお知らせ、ハザードマップが届いても気が付かない可能性があります。そのため、指定避難場所がどこにあるのか紙に貼っておくなど、避難場所と持ち出し袋がどこにあるか、普段から把握できるように心がけてください。
どのように避難すればよいか?
避難場所がわかったら、一度実際にそこまで歩いてみましょう。実際歩いたらどれくらいかかるのかを事前に調べておくと良いです。場合によっては車いすで登れない階段があったり、坂の上り下りで足腰を痛めないように杖が必要になったりするかもしれません。
また、介助が必要な状況に備えて、普段から周囲へのコミュニケーションを図ることも必要ですが、自治体毎に「避難行動要支援者名簿(旧災害時要援護者名簿)」が設けられているので活用しましょう。この避難行動要支援者名簿は、災害対策基本法に基づき作成が義務づけられており、高齢者だけではなく障がい者や乳幼児等、災害発生時の避難時に支援を要する場合、予め登録ができる制度です。一人では避難が難しい高齢者の方は、自治体に相談してみてください。
高齢者のための防災~備蓄品を用意する
防災のための備蓄品でよく耳にするのが「ローリングストック」です。日常的に使用する飲食料や日用品を多めにストックして、賞味(使用)期限が近づいてきたものから使用し、また買い足すようにするものです。
高齢者だと、多めに買うことや期限切れの管理が難しいかもしれませんが、なるべく普段から食べるものや使うものを何かあっても使用できるようにしておくために、備蓄品を用意するように教えてあげましょう。
特に気を付けたい高齢者のための備蓄品
- ・持病や基礎疾患がある場合は、ストックする食品の成分に注意をする
- ・噛む力がない、嚥下障害がある場合は、やわらかい介護食を用意する
- ・常用薬や処方薬
- ・マスクをはじめとする感染対策品
- ・入れ歯とその洗浄剤
- ・補聴器または助聴器とその電池
- ・普段より在宅医療で使用している物品
- ・在宅医療で電源を必要とする機器を使用している場合は、バッテリー等の電源確保
なお、医療的ケアで必要な物品はその方に合ったチェックリストを作っておきましょう。
高齢者の防災意識を高めるために
これだけテレビや新聞で自然災害やその被害状況が報道されても、高齢者だけでなく多くの方が防災意識はあっても実践するところまで行き届かないのが現状です。費用や手間がかかるだけに、なかなか浸透しないようです。では、高齢者の方に防災の必要性を理解してもらうためには、どのようにすればよいでしょうか。
避難訓練への参加
消防法によりホテルやデパート、病院など不特定多数の人が出入りする施設は避難訓練を2回実施することが義務づけられています。介護施設やデイサービスも同様です。
また、マンションや集合住宅でも防災管理者を決め、防災計画を立てたうえで防災訓練を実施することが定められています。災害が多く発生しやすい自治体では、戸建てや集合住宅にお住まいの方向けの避難訓練を実施しています。
コミュニケーション
最近のマンションや集合住宅では、隣にどんな人が住んでいるかわからない、挨拶すらもしないなど住民間の繋がりが希薄になっています。「〇〇さんがいない」「〇〇さんは足が弱っているからすぐ避難できない」など、何かあったときのためにお互い声かけできるようなコミュニケーションが必要です。高齢者世帯の場合は、普段から家族で話し合うなど、1年に1回は備蓄品を確認し合う時間を持ちましょう。
別居している場合は、電話での声掛けだけではなく、里帰りのように実際に親の住んでいる環境をチェックして、何かあったときには近所の方やかかりつけ医、民生委員に相談してみるのも良いでしょう。
あれだけテレビや携帯電話で災害警報が流れても、「いつものこと」「これくらいの揺れなら大丈夫」と、ついつい見過ごしてしまいます。実際に被災しないと、自然災害の恐ろしさや防災の備えが不十分だったことを実感できません。大切なご家族の安全を願うためにも、普段からの防災意識と備えを見直してみませんか?
よくある質問
別居している高齢の家族のためにできる防災対策は?
いざというときのためにも
- 家に居ても、すぐ外に避難ができるよう、スムーズな移動の動線を確保しておく。
- 家具が転倒しないように防止のストッパーや突っ張り棒を設置しておく。
- 非常時のための持ち出し袋を用意しておき、持ち出しやすい場所に置いておく。
- 普段から食べるものや使うものを備蓄品として準備しておく。
などの対策は事前に行うようにしてください。
別居している高齢の両親とは、どのような連絡手段を準備しておけば良いでしょうか。
ご高齢の方は、携帯電話をお持ちの方も少ないかと思います。
- 固定電話の場合は、コードレスフォンを利用して常に手元に近い場所に置いておき、連絡が取りやすい状態にしておく。
※定期的に連絡は取るようにして、普段から連絡がスムーズに取れる状態かどうかは確認しておくようにしてください。 - 近所の方やかかりつけ医、民生委員には、何かあったときのための連絡手段として、事前に相談しておく。
など、前もっての準備・対応を心がけてください。