帯状疱疹（たいじょうほうしん）とは
身近な人だけではなく、最近では芸能人が罹患したというニュースを見聞きすることがある「帯状疱疹」。
自分は罹ったことがないからと、安心するのは禁物です。体に激痛を及ぼす帯状疱疹は、実は誰しも罹る可能性があると言われています。
日本人成人の90％以上は帯状疱疹の原因となるウィルスが体内に潜み、80歳までに約3人に1人が罹ると言われています。※
実は、帯状疱疹に罹らないための予防法もあります。
改めて、帯状疱疹の症状や予防についてご紹介します。
帯状疱疹の症状
帯状疱疹は体の左右どちらに生じる発疹で、皮膚の痛みやかゆみなどの症状が出ます。
いきなり発疹が出るわけではなく、初期は痛みを感じます。神経の炎症によるこの痛みは激しく、放っておくと赤い斑点ができてしまい、水ぶくれがだんだんと帯状に広がってきます。
このことから「帯状疱疹」と名付けられました。
水ぶくれは膿が溜まることもあり、数日すると水ぶくれがやぶれジュクジュクに。
そしてかさぶたとなり、症状は治まってきます。
ただし、水ぶくれやかさぶたの状態によっては、皮膚に跡が残ってしまうこともあります。
体の左右どちらかに症状が出ますが、その部位はお腹や胸、背中といった上半身に多く、さらに顔面や眼の周りに発疹が出てくることもあります。
| 上肢～胸背部 | 31.2% |
|---|---|
| 腹背部 | 19.6% |
| 頭部～顔面 | 17.6% |
| 腰臀部～下肢 | 17.1% |
| 頸部～上肢 | 14.5% |
※石川博康 他 : 日皮会誌. 2003 年 113 巻 8 号 p. 1229-1239
多施設合同による帯状疱疹の年間統計解析の試みより抜粋（2000年4月～2001年3月）
顔面に発症する割合が17％と、想像以上に高い数値です。
衣類で隠れるなら隠しておきたいですが、顔、特に眼のまわりについては、屋内でずっとサングラスをかけたとしても、日常生活に大いに支障をきたしてしまいます。
眼周りは皮膚が薄いので、掻いたり痛みを我慢したりすることが難しいからです。
痛みについて
帯状疱疹に罹ったことがあればわかる「痛み」。どんな痛みなのでしょうか。
初期は神経痛のような痛みを皮膚に感じ、徐々に違和感やかゆみが生じます。そして、ズキズキ、ピリピリ、針でチクチク刺したような痛みを感じます。
もちろん個人差があるので、一概にこのような状態になれば帯状疱疹だとは断定できませんが、「お腹から背中を突き抜けるような痛み」「寝返りが打てない」「夜も眠れない」「動けないほどの激痛」と表現する人もいることから、相当な痛みがあるようです。
赤く発疹ができた部位が痛いのではなく、裏側（背中に発疹がある場合お腹側）に激痛が走ったとも聞きます。左右どちらかに痛みを感じ、発疹の症状が出始めたら速やかに医師に相談しましょう。
合併症（帯状疱疹後神経痛）について
皮膚の赤みや水ぶくれが治まっても、痛みだけが残り続ける「帯状疱疹後神経痛」という合併症があります。
帯状疱疹に罹患した人の5～20％はこの合併症を発症し、年齢が高くなるほど罹りやすいとされています。
痛みは数か月続く場合もあり、痛みの部位は帯状疱疹と同じで体の左右どちらかだけです。
帯状疱疹の原因
激痛を伴い、高齢になるほど発症リスクが高まる帯状疱疹。なぜ発症するのでしょうか？
原因について
帯状疱疹は、もともと水痘（水疱瘡（みずぼうそう））のウィルスが起因しています。
10歳までに多くの子供が罹る、水疱瘡。終生免疫ができるので、一度水疱瘡に罹ったら二度と罹ることはありません。
しかし、水疱瘡の原因ウィルス「水痘帯状疱疹（すいとうたいじょうほうしん）ウィルス」は、水疱瘡が治っても背骨付近の神経に存在しています。
この状態を、潜伏感染と言います。成長するにつれて自己免疫力がついてくるので、水痘帯状疱疹ウィルスに感染していても、ウィルスはただ存在するだけ（＝潜伏）の状態です。
しかし、加齢による免疫力の低下やストレス過多により、潜伏していたウィルスが活動し始めると、神経から皮膚に至り帯状疱疹を発症してしまうのです。
まさか子供の頃に罹った水疱瘡が、大人になってから影響するとは思いもよりませんよね。
帯状疱疹は人から人にうつる？
帯状疱疹は、人から人へ感染しません。ただし、帯状疱疹罹患中の人が水疱瘡に罹ったことがない人（もしくは水疱瘡ワクチン未接種のお子様）と接触したら、帯状疱疹ではなく水疱瘡を発症させる可能性があるので、できるだけ接触は控えましょう。
人から人への感染はないので、就業中の方は出社しても問題ありません。
しかし、痛みで業務に集中できないと判断できたら、自主的に休んで安静にしましょう。休養が何よりの治療です。
帯状疱疹なぜ発症？コロナの影響も？
帯状疱疹が発症する原因としては、まず自己免疫力の低下です。
病気に罹りやすくなる、風邪をひきやすくなるなど、年を取ると感じる免疫力の衰え。
体力が落ちたり疲れが取れにくくなったりすることと同じく、年を取るにつれて免疫力が低下します。
帯状疱疹の年代別発症率(2009～2015年)※
対象・方法：2009～2015年に宮崎県の43施設で帯状疱疹と診断された34,877例について、年代別、性別等に層別し、帯状疱疹の患者数、及び宮崎県の人口を母数として発症率を算出
このグラフの通り、50代を境に発症率が高まるとわかります。
ただし、若年層での発症も認められているので、まだ若いから大丈夫という過信は禁物です。
若年層でも発症する原因は、ストレスです。ストレスにより自律神経が乱れてしまい、体内の免疫システムが正常に働かなくなり免疫力が低下します。
ストレスで免疫力が低下すると、口内炎や風邪、低体温などの症状も出ます。
必ず帯状疱疹を発症するとは限りませんが、いずれにしてもストレスを溜めないことに越したことはありません。
さらに、特にこの数年は、新型コロナウィルス感染症による影響も報告されています。
- ①新型コロナウィルスによるストレス
未知の病気による不安や厳しい感染対策、慣れないリモートワーク、外食外出の制限、遠く離れた家族や友人知人に会えない寂しさ、孤独…など、この数年でライフスタイルが大きく変化しました。
そのため、知らず知らずのうちにストレスが増えてしまい、免疫力が低下したことも影響しています。 - ②新型コロナウィルス感染による免疫細胞のダメージ※
アメリカにおいて、50歳以上で新型コロナウィルスに感染した人と感染していない人を比べたところ、半年以内に帯状疱疹を感染する可能性は感染した人の方が高かったと報告があります。
新型コロナウィルスに感染したことによる、免疫細胞へのダメージが影響していると考えられます。
※Increased Risk of Herpes Zoster in Adults ≥50 Years Old Diagnosed With COVID-19 in the United States - ③新型コロナウィルスワクチンの影響
ワクチンが帯状疱疹を引き起こすのではありません。
新型コロナワクチンは、疑似的に感染させて免疫反応を体内で発生させるものです。
新型コロナウィルス感染症による後遺症は個人差があり、倦怠感や嗅覚・味覚異常など、様々な症状が報告されています。
帯状疱疹とコロナとの関連性についても、今後研究が進められることでしょう。
帯状疱疹の治療・予防
では、「もしかするとこの痛みは帯状疱疹かな？」と感じたらどうすればよいでしょうか。
何科に受診？
帯状疱疹の疑いがあった場合は、皮膚科を受診します。帯状疱疹かどうかわからない時や、痛みはあるけど発疹が出ていない時は、一般内科でも診てもらえることがあります。
皮膚科で処置が済んで、皮膚の水ぶくれや赤みが治まっても、痛みが取れない帯状疱疹後神経痛が続くようであれば、ペインクリニックに相談するとよいでしょう。
また、顔の帯状疱疹は、顔面神経麻痺のひとつである「ラムゼイハント症候群」のリスクもあるので、早めの受診をおすすめします。
（2022年6月に歌手のジャスティン・ビーバーがラムゼイハント症候群に発症していると公表しています）
どんな治療があるのか
帯状疱疹を受診すると、ウィルスに対する抗生物質や、痛みを緩和する薬を処方してもらいます。
かゆみ止めなどの塗り薬や痛み止めの市販薬では効果がほぼないので、必ず医師に処方してもらいましょう。
帯状疱疹は、ウィルスが活性することにより引き起こされます。そのため治療中は、免疫が落ちないように意識した日常生活を過ごすことも大切です。
治療中、特に水ぶくれの状態での入浴は避けて、シャワーで済ませるようにしましょう。
なお皮膚の状態が悪化したり、激痛が続く重症だったりする場合は、入院して点滴で治療することもあります。
予防について
水疱瘡に罹ったことがある人は、水痘帯状疱疹ウィルスが体内に潜んでいます。
そのため、帯状疱疹の予防で必要なのは、ウィルスを活性させないように免疫力を維持すること。
体調管理の徹底と、ストレスフリーな生活を日頃から意識しましょう。
帯状疱疹の予防法としては、以下の通りです。
- ① 栄養とバランスのよい食事を取る
- ② たっぷりの睡眠時間を確保する
- ③ お風呂で体を温める
- ④ 適度な運動をする
- ⑤ 飲酒と喫煙は控えめに
- ⑥ 趣味を楽しむ
- ⑦ オンオフの切り替えをする
- ⑧ ストレスの原因がわかっていれば相談や見直しを
全て一度に取り掛かるのは難しいので、少しずつできるところからスタートし、ストレスフリーの状態をつくってみてください。
また、帯状疱疹予防ワクチンは50歳以上から任意で受けることができます。
水痘帯状疱疹ウィルスへの抵抗力は、加齢とともに落ちてしまいます。そのため、ワクチンの接種によって免疫力をつけ、帯状疱疹の発症を抑えることが目的です。
もちろん、帯状疱疹予防ワクチンは、コロナウィルスやインフルエンザのワクチンと同様に、接種したからといって完全に罹らないわけではありません。ただ、ワクチン接種後に帯状疱疹を発症しても、軽症で済む場合があります。
発症や合併症が心配な方はもちろん、過去に帯状疱疹に罹った人であの痛みは二度と感じたくない（特に発症から5年以上経過）と思う方がいれば、ワクチンによる予防も検討してください。
帯状疱疹予防ワクチンは、以下の2種類があります。
| 従来型生ワクチン（ビケン） | 不活化ワクチン（シングリックス） | |
|---|---|---|
| 回数 | 1回 | 2回 |
| 有効性 | 約60% 5年過ぎると低下 | 約90%以上 約10年持続性がある |
| 費用 | 約8,000円 | 2回44,000円 |
| 対象年齢 | 50歳以上 | 50歳以上 |
特に、シングリックスワクチンは有効性と持続性に優れているのですが、費用がかかります。
自治体によっては助成金が出るケースもあるので、ワクチン接種を検討されている方は、お住まいの自治体で実施しているか否かを確認しましょう。
子供の頃に罹った水疱瘡が数十年経って影響を及ぼす、帯状疱疹。
一生罹らない人もいれば、一度罹ったら痛みがずっと続く人もいます。できることなら発症しないで済ませたいものです。
そのためにも生活習慣を見直して、ストレスを感じないように心がけるのが最善策です。
また、50歳を過ぎたら予防ワクチンの接種も検討してみてはいかがでしょうか。
よくある質問
帯状疱疹は人にうつりますか？
帯状疱疹は人から人に感染することはありません。
ただし、帯状疱疹の方が、水疱瘡にかかったことがない（水疱瘡ワクチン未接種のお子様含む）人と接触することで、帯状疱疹ウィルスをうつし、帯状疱疹ではなく、水疱瘡を発症させることがございます。
帯状疱疹の原因は？
帯状疱疹は水疱瘡のウィルスが起因。
水疱瘡が治った後も水痘帯状疱疹ウィルスとして背骨付近の神経に存在。
加齢による免疫力低下やストレスが原因で潜伏していたウィルスが活動し始め発症。
最近では新型コロナウィルス感染による免疫細胞へのダメージや感染症への不安や行動制限等のストレスなどが原因で帯状疱疹に罹っている方が急増しているとも言われています。
